有名小説のいくつかある映画化のうち、最近のミア・ワシコウスカ、マイケル・ファスベンダーのバージョンを鑑賞。不幸な孤児のジェーン・エアが、成長して住み込み家庭教師になった家で雇い主と恋仲になり…というあらすじだけ書くと「その時代のロマンス小説」の一言で片づけられてしまいます。(笑)ですが、なるほど読みつがれているのもわかるなあ…と思える「映画化」作品でした。
…じつはブロンテ姉妹ものは、なんとなく「自分向けではない」と思っているジャンル(?)の一つ(^^;)なんですが、今回のはすごく入り込めました。感情移入とは少し違うんですが。まずは
音楽がすばらしくて。この音楽の情感の魅力が、自分にとっては作品の半分を担っていた気がします。残念ながらトレイラーには使われてないようなんですが、ストリングスの、切なく美しいけどきりきりとするような、ジェーンの精神を表現してるような旋律がすばらしかった。この「特定の精神状態を表現する」ことにフォーカスして、それを拡大する…という表現手法は、古典芸術の風合いに近い気がします。
映像がまた絵画のようで。ミア・ワシコウスカの容姿(魅力的なのに素朴で、たしかに「美女」というタイプではないけど「妖精」と言われるのがぴったりな、不思議な容姿)と、特に室内シーンでの画面の色合いやライティングが、古い油絵のようでため息が出ました。この「絵」のなかで演じられるジェーンの姿が、音楽が表現する「精神」によって立体として浮かび上がる、という印象でした。ここも古典の手触りですね。
男優さんは、相手役がマイケル・ファスベンダー。レンタルした理由の半分はもちろんこの方。(笑)原作を未読なので、ほとんどネタバレといっていい予告編(^^;)を見たときは、「もっとけしからんキャラクター」なのかと思ってました(笑)。ああいうなりゆきになるとは。…結末含めて、あまりに「女子にとって都合がよい夢物語」ではあるのですが。(終盤のエドワードが「ああいう状態」であることが、逆説的に、どれだけ「都合がいい」ことか!(^^;))
でも、その「都合がよすぎる」部分が浮かずに、「古典芸術のように」受け入れられるのは、やはり「音楽と“絵”」の素晴らしさと、主演のワシコウスカとファスベンダーのシリアスな説得力のおかげ…かもしれない。ストーリーにまとわりつく「絵空事感」より、「表現としてのすばらしさ」に目がいってしまうんです。とくにワシコウスカはすばらしかった!舞台劇的な「すばらしさ」ではなく、台詞はつぶやくような言い方ですごくリアル。「演じられてる」と意識しようとしてもできないくらいです。ほかのキャラクターはすべて、「役者さんが演じているんだ」と思い出せばそう見えるのですが、ジェーンはジェーンそのものに見えます。彼女の他の作品をあまり見ていないのもあるかもしれませんが、ほんとにこの方すごいと思いました!このキャスティングをした時点で八割くらい成功してるのでは。
ほかにジュディ・デンチも出ていて、脇を引き締めていました。(さらに脇ですが、幼少期に出てくるいじわるな校長先生は、『裏切りのサーカス』でレイコン次官をやってた方ですね♪この方けっこう好きだったので見られて嬉しかった♪)
そして、館を逃げ出したジェーンを救う牧師役がジェイミー・ベル!大好きなんですが、出ていると意識してなかったので嬉しい驚きでした!少し前に、ワシコウスカとカップルを演じた『ディファイアンス』を見たばかりだったので、「また彼女とくっつくの…!?」と一瞬思いました。(笑)(『ディファイアンス』は感想を書き損ねましたが、二次大戦時、森に隠れながらナチスに反抗したユダヤ人の集団と、それを統率した人の話。主演はダニエル・クレイグでジェイミーくんは弟役です)
この牧師は終盤、「インドに宣教師として赴任するので結婚して同行してほしい」、とジェーンに申し込むのですが…。原作のレビューを読んだら、このプロポーズがどういう本心なのか、というのが考察されていて興味深かったです。今回の映画では、「ジェーンに惚れている」のが先にあって、神に与えられた役割うんぬんは結婚を正当化する盾にしている、という感じが匂う演じられ方でした。あからさまではないんですけど。
でもこの結婚申し込みも、考えてみると「ラストをああいうふうに持っていく」ための仕掛けになってるんですよね。これでもし彼が、ジェーンが望んだように「兄妹として」インドにいってほしい、と言うような人だったら…ある意味女子の夢のキャラクターだと思うんですが。(女子の理想は恋愛相手ばかりとは限らない(笑))ここで彼がこういうことを言ってくれるから、そのあとがあるんですね。原作通りなのかどうか知りませんが、ここも都合がいいといえば都合がいい。(笑)
…この牧師はここまでずっと紳士的だったんですけど、どこかで豹変するんじゃないか、という風情があったんですよね…。だから終盤の声を荒げるあたり、抑えていた本性が出たという感じでした。ジェイミーくんもうまいですね。大好きですほんとに♪この牧師は脇役なので、これまでどういう生活をしていたのかは、「一年前の自分は惨めだった」という台詞しか想像するよすががないのですが…原作では書かれているんでしょうか。メインストーリーと違うところに目がいってしまいましたが、原作も読んでみたくなりました。