2016/10/09

アテンション・スパン(注意力を維持できる時間):テッド・チャンさんインタビューから(リンクと拙訳)

ちょっと間が空いてしまいましたが、先日言及したSF作家テッド・チャンさんのインタビューから、「インターネットの影響で注意力を維持できる時間が短くなった」というお話について。

自分も同じことをかなりシビアに感じているので、じつはこの長いインタビューで一番印象的だった箇所でした。(ここ数年対処法を模索しておりますー(^^;))しかしチャン氏がこう言っていたというのは正直ショックでもあり……というのは(インタビュアーさんも言っていますが)この方、IT業界で働いているらしいのですが、公式サイトもSNSも(少なくともこの名前では)やっていなくて、自分の目には「ネットから賢い距離の取り方をしている好例」と映っていたからです。使いこなしてはいるけど振り回されていない、というイメージを持っていました。その方でさえこう言ってるというのはちょっと安心(?)する反面、それじゃうまく対処していくことはやはり難しいのだわ……と、ちょっとしたゼツボー感も覚えました。

インターネットは仕事にも生活にももはや必需品ですし、同じ問題に直面している方も多いと思うので、インタビューからその箇所をご紹介させて頂きます。(注意力の問題は後半に出てきますが、話の流れがわかるように少し前からご紹介させていただきます。その箇所ももちろん興味深いお話でした。今で言うUMA系も好きだったというお話には勝手に親近感を覚えました!(笑) インタビュアーさんは十年来のお友達とのことなので、ですます調を避けて訳させていただきます)

インタビュー原文ページ

毎度ですが、ファンが思い余って勝手に訳しているもので、記事の著作権はリンク先のサイト様所有です。
問題が生じましたらその時点で削除させていただきます。m(_ _)m
(I don't own the rights to this interview. All rights belong to the website above.
Just as a fan, I translated a part of this interview into Japanese personally.)


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M(ミーガン・マッキャロン): 最近あなたとは、書き言葉が私たちの意識に深く根付いていて、自分たちがもし文字ができる前の文化に生まれたら、と想像するのは難しいって話し合ったわよね。あなたは別のインタビューで、アシモフがサイエンス・フィクションを書く最初の刺激だったと言っていた。あなたを読書と書くことに引きつけたものは何で、いつ頃だった? 今それとの関係はどうなってる?

C(テッド・チャン): 自分たちがどれほど深いレベルで生まれ育った文化の産物か、それを考えるのは興味深いよね。ものの認識の仕方というレベルまでそうなんだ。僕たちはみんな個人として、いつどこに生まれようと変わらない、何か本質的なものが自分たちの中にあると考えたがるものだけど、自分が何者かを定義する営みの多くは、完全にそれぞれの文化特有のものだ。音楽はすべての文化にあるように見えるから、ミュージシャンは生まれた文化のなかで音楽がどんな形をとっているかに関わらず、音楽に引きつけられるかもしれない。だけど、僕は書き言葉がない文化のなかでは何に引きつけられるだろう? 語り部(ストーリーテラー)になるとは思えない。口頭によるストーリーテリングは完全にパフォーマンスだし、僕はパフォーマー向きじゃないから。

何が読書に引きつけたか、ね。子供にしてはガツガツ読んでたよ。だけど初等学校の頃には、フィクションよりノンフィクションに興味を持ってた時期があった。動物全般や、とくに爬虫類の本を山ほど読んだのを覚えてる。奇妙なものについての本も好きだった。ビッグフットとかネッシーとか。四年生の頃、教室で『クローディアの秘密』を読まされてた頃には、自分ではバーナード・ヒューベルマンの『シーサーペントを追って』を読んでたんだ。うわ、この本のことなんて長く考えたことがなかったよ。思うにサイエンス・フィクションを知る前は、そうやって不思議なものへの飢えを満たしてたんだろうね。

今では、悲しいことに読書との関わり方が変わりつつあるといわざるを得ない。僕は今も確かに本を読むけど、注意力(アテンション)を維持できる時間がインターネットのせいで短くなってるのがわかるんだ。評論家のキャサリン・ヘイルズが、難しい小説を読むときに使う「ディープ・アテンション」と、たくさんの違うタスクを瞬時に切り替えるときに使う「ハイパー・アテンション」の違いを指摘してるけど、僕らのほとんどは自分たちが前者から後者にシフトしてると感じてるんじゃないかな。これを止められたらと思うよ。

M: あなたにとって注意力を維持できる時間が短くなってることが問題だ、というのはすごく興味深いし、少し怖くもある。だってあなたは作家としてSNSで活動してないから。ネットのどこで時間を使ってるの? ネットに時間を費やすことに、何か肯定的な面があると思う?

C: SNSから離れていても、インターネットは影響力を持ってると思うよ。単純に、あらゆる分野の最新情報をどれくらいの頻度で期待できるかが変わった、という形で。以前は、一般的なニュースは毎日手に入っても、特定の興味がある分野の最新情報は雑誌で週一回か、たいていは月一回だった。今はいろんなウェブサイトをブラウザのタブで開きっぱなしにできて、それぞれが一時間単位でアップデートされていく。だから最新情報を見るためにひっきりなしにタブを切り替えて、ページをリロードすることに慣れてしまう。そしてもちろん、ネットの記事はたいてい印刷された記事より短いから、読み方がそれに順応する。昔から、誰でも「これは面白そうな記事だな。でもちょっと長い。取っておいてあとで読もう」という長さの基準はあったけど、ネットでより長い時間を費やすほど、それは短くなると思う。

ネットで時間を費やすことの肯定的な面はよくわからない。その「肯定的」が「人を惹きつける・楽しい」じゃなくて「本当に良い」という意味ならね。ひっきりなしに最新ニュースを得ることは、世界や特定のコミュニティによりつながっている、という感覚を僕らに持たせると思う。僕は葛藤してるんだ。僕の中の一部は確かにテクノロジー好きだし、サイエンス・フィクション・ライターとしても、たぶんインターネット・カルチャーについてのなんらかの見識を持つべきだと思う。だけどインターネットを巨大な図書館としてもっとうまく使いこなせたらと思うよ。あらゆるチャンネルにつながってるテレビとして使うことなしにね。


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…まったくですよねー。(^^;)以前はこんな問題が起こるなんて想像もできなかったし、それこそ巨大な図書館に部屋からアクセスできるイメージしかなかったです。…自分はスマホを使ってないんですが(現代人としてはもはや絶滅危惧種かもしれません(笑))、最近は「スマホをいじらなかった時間を計測して、いじらないことを支援するスマホのアプリ」という矛盾したものもあるそうですね。対処には混迷が続きそうです。(笑)(←笑ってる場合じゃない~☆)



関連リンク


母艦サイト内:テッド・チャン情報メモ(2018/10/11改称・「テッド・チャンさん備忘録」)
(他の部分のインタヒュー拙訳などを掲載)

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創作について(テッド・チャンさんインタビューから)

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『完全主義者』テッド・チャンさんインタビュー(リンクと拙訳)