先日、念願だった『手紙は憶えている』をレンタルDVDで鑑賞しました。劇場公開時の広告で気になっていたんですが、見に行けなかった一本。大好きなクリストファー・プラマー様主演、共演は先日亡くなったマーティン・ランドーです。この顔ぶれだけでも見たくなりますが、内容がまた独特で、進行中の認知症をサスペンス要素として使い、かつてアウシュビッツで家族を殺されたユダヤ人が、アメリカに潜伏している元ナチスに復讐しようとする、というもの。原題は"Remember"。(「思い出す」…むしろ命令形で「思い出せ」でしょうか)
プラマー演じるゼヴ・グットマンは老人ホームに入っている老人。妻を亡くしたばかりで認知症の進行に拍車がかかっています。眠って起きるたびに記憶がなくなっていて、妻を死んだことを忘れ彼女を探すところから始めなくてはなりません。ランドー演じるマックスは老人ホームの仲間で車椅子生活。ゼヴと共にアウシュビッツの生存者で、かつてのアウシュビッツの責任者が身分を偽ってアメリカに逃れ、存命中だと知ります。歩けない彼は、ゼヴにやるべきことを順番に、詳細に書いた手紙(コレを読むことさえ忘れるので、ゼヴは自分の腕に「手紙を読むこと」と書き付ける)と金を持たせ、復讐殺人の旅へと送り出しますが――。
…少しだけ恨み言を書きますと、日本版の宣伝の力点が……(^^;)。このせいで大切なところが見る前にある程度予想がついてしまいました。というわけで「ネタバレ」にあたる部分はたぶん予想がつく方も多いと思うのですが、あまりそこにこだわらずに見たい映画でした。というのは、それを踏まえて経過を見てもほんとにいろいろ考えさせられる、よくできたお話なので。現代のナチ信奉者というのも出てくるのですが、興味あるところでした。恐ろしかった……。
プラマー様がひたすら非力な老人を演じているのも時の流れを感じさせます。なんとなく続けて手持ちの『ドラキュリア』を見て口直し(?)してしまいました。演技なのはわかってるんですけどリアルで、内容含めて胸が締め付けられました。でもあの若い頃のイメージ、あの押し出しの立派さのイメージがあるプラマー様をこのキャストに当てたところも成功していると思います。ほかに元ナチス役でブルーノ・ガンツ(『ベルリン天使の詩』)やユルゲン・プロホノフ(『U-ボート』)など、懐かしいドイツ人俳優さんも出ていました。
そしてマーティン・ランドー。先日亡くなったときはこちらにはお悔やみを書けませんでしたが、このマックス役も心に残る役でした。あのハンサムだけどちょっと怖いような風貌、『スパイ大作戦』で記憶してらっしゃる方は多いと思います。SFドラマの『スペース1999』、ホラー俳優ベラ・ルゴシを演じた『エド・ウッド』など、以前はまった時に少しだけ出演作を漁りました。とはいえほとんどレンタルで見たので、今見返せるのは白黒のテレビシリーズ『ミステリーゾーン』くらいです。(『運という名の男』というエピソードで、すごく若い頃の姿を見られます)
…マックス役では白髪でめがねをかけ、鼻の下にチューブを当てた病人の姿なのでまた印象が違いましたが、晩年は闘病なさっていたそうなので、私生活でもあんな状況はあったのかもしれません。ご冥福をお祈りいたします。
ちょっと思い出したのですが、認知症をサスペンス要因に使う映画として印象的だったものに、パトリック・スチュワート主演の"Safe House"という作品がありました。たしか主人公は元スパイ組織か何かで働いていた人で、体力や知能はたぶん未だに人並み以上なのですが、認知症の症状に悩まされています。そして自分の過去ゆえに命を狙われることを恐れて、厳重なセキュリティを施した家で独り暮らしをしている、という設定です。こちらはスチュワートがまだ比較的若く、トレードマークのスキンヘッドがむしろセクシーに映るくらいで(サービスとして長々とシャワーシーンがあるくらいの肉体美!(笑))、アクションもこなす映画なので、哀れさよりサスペンス要素が勝っていました。(当時スチュワートのファンだったので輸入VHSで見たのですが、作品としては小粒なアクション映画の範疇を出ないかもしれません。でもほんとに、ファンの目には垂涎ものだったのです~(^^;))
「国外に逃れた元ナチス」という題材では、ちょっと前に『ブラジルから来た少年』の再見感想も書きましたが、イアン・マッケランがその元ナチスを演じた『ゴールデンボーイ』という秀作もありましたね。こちらもおすすめな一本なので、感想にリンクしておきます。
「気をつけろ坊や。これは危険な遊びだ」(『ゴールデンボーイ』(1998)再見)
ちょうど今、「ちょびちょび読み本」――「一冊読了してから次」という読み方ができなくなってきたので、開き直ってその日の気分で読みかじっています(笑)――の中に両大戦周辺のものが増えていて、作品準備も兼ねてはいますが、このあたりの歴史に興味が出ているところです。ちょうど世の中全体も二次大戦絡みの回想をする時期で、現在の情勢も不安定だったりして、過去の大戦周辺の歴史がよく取り上げられていますね。そんな中で見たこの『手紙は憶えている』、ネタバレを避けると書けないのですが、いろんな切り口で感じるものがありました。
…戦争がらみは別にして、こういうアプローチ――認知症含めて「老人」をアクティブな(必ずしも肉体的にという意味でなく)素材として扱うもの――は、洋画ではけっこう増えきましたね。クリストファー・プラマー様を気にしてるせいかもしれませんが……(シャーリー・マクレーンとはその手の映画で二回共演していますね。その一方、『あの日の指輪を待つ君へ』での、思いを内に秘めた元軍人役もすてきでした♪)日本は老いや認知症をドライに扱う文化ではないのですが、高齢キャラクターが主演の『やすらぎの郷』のようなものも出てきましたし、お涙系以外の、「アタリマエの」状況を反映したエンタメは少しずつ増えてくるのでは。魅力的な俳優さんたちが高齢になっていき、観客もいっしょに年をとっていくわけですもんね。
(…なぜか今ぱっと思い出したのは『老人Z』というアニメの怪作(?)です。あれっくらいぶっちぎれたのがあってもいいのに、とも思いますが、今の世相では逆に難しいかも?)
また話が広がりすぎて収集がつかなくなりました。失礼しました☆(^^;)
[追記]
以前英語の映画スクリプトがたくさん公開されているサイトを発見しまして、そこで「プラマー様の新作♪」というだけのミーハーな動機でダウンロードしていたのがじつはコレでした。ネタバレを読みたくなかったのもあり手をつけないままでしたが、改めてこれと共に、もし原作があるのならちょっと読んでみたい気がします。舞台劇にできそうな構成なので、元が舞台の可能性もあるかも?(未確認です)
スクリプトをゲットしたのはこのサイトからです。いろんな作品の台本が読めます。
Movie Scripts and Screenplays
ソフトから書き出したトランスクリプトではなく、本物の台本(形式などからそう思われる)のPDFでした。