2016/09/02

「ヴィスコンティと美しき男たち」: 『山猫』(1963)


久しぶりに映画の感想を。あちこち話が飛んだすえ、果てはバート・ランカスター萌え話というまとまりのなさですが、ご了承くださいマセ。

『山猫』(1963)

だいぶ時間が経ってしまいましたが、以前ここのブログにも書いたルキノ・ヴィスコンティ監督映画のリバイバル上映「ヴィスコンティと美しき男たち」、8月初旬に未見だった『山猫』を見てきました。(『ルートヴィヒ』と共に全国巡回してるらしいので、公式リンクをあとに貼りますね♪)

イタリア貴族の没落していく状況を描いた作品で、ポスター等で「アラン・ドロンが片目を黒い眼帯(?)で粋に隠したキメポーズ」をよく目にしていたのですが、『ルートヴィヒ』と比べるとマイナーなのかレンタルでも見かけず、なんとなく縁がないままだった一本です。ようやく見られました!

フタをあけてみるとドロンがあの姿で出ているのはほんの少しでしたが、それにしても生き生きとした青年貴族でした! 激動の時代にせっそーなく立場を変え(笑)、見事に世渡りしていきます。見る前は「ドロンが貴族?」といぶかしんでいましたが、なるほどこういう役なら似合うなー、と思いました。

そして主演はバート・ランカスター。身分は公爵で、アラン・ドロンはその甥です。…ちなみにドロンの役名はタンクレディ言ったら負けですがやっぱ日本の語感ではヘンな名前。文字で見ると特に。(それを言ったら「ドロン」だって充分ヘンだ。慣れとは恐ろしい(笑)。そういえば昔『タンクガール』って映画が……って横道自粛!(^^;))

とにかく、見に行った動機はゆるくアラン・ドロンだったのですが、すっかりランカスターにもってかれました! 没落しつつも時代の流れをなんとか乗りきっていく初老のイタリア貴族、という役です。時代背景は19世紀後半。1860年にシチリア王国を滅ぼした反乱からイタリア統一に向かっていく、まさに激動の時代……ですね。(詳しくないのでおーざっぱですいません)個人的には根っから庶民なので(笑)貴族に感情移入はしにくいんですが、もっと一般化して「時代が移り、自分がなじんでいた文化が過去のものになってしまった」という思いを抱くことは、誰にでもあると思います。もちろん自分もあります。公爵はそういう意味で、広く共感を呼ぶと思います。そして現実的な「長」であること――家長でも社長でも何でもいいんですが――その厳しさ・悲哀をひしひしと感じました。

過渡期の旧世代ということで言えば、消えていく様を描くパターンもありますよね。その時代には異質な過去の遺物となって消えて(消されて)いくような。ちょうどこれを見たすぐあとに、そういう例の『パットン大戦車軍団』をちらっと再見したので好対照だと思ったのですが……パットン将軍は生まれや世代というより個性が強烈なのですが、自分の価値観に堂々と固執する姿は、『山猫』の公爵とはまさに対照的という気がします。

でも、現実には「そこから続く」苦しみがけっこう長い。時代遅れになった老将軍は華々しく散ったりはしないもの。老兵は死なず、消えゆくまでの時間がまた別の試練です。(前述のパットンの例で言うと、同じジョージ・C・スコット主演で晩年のパットンを描いた『パットン将軍最後の日々』というテレビ映画があります。『…大戦車軍団』に較べると地味ですが、パットンの「消えるまでの時期」を描いていて、史実を知らなかったので衝撃でした)

『山猫』の公爵の場合は、少なくとも表向きは世をすねもせず、変化をすべて受け入れ、うまく一族を存続させ、甥の変わり身の早さも現実的な取柄として評価・支援し、自分のやるべきことを粛々とこなします。おかげで醜態をさらすことなく、破滅することも免れている「成功者」なのですが、芯にあるものは変えようがなく……内面で格闘しているのですよね。「一抹の寂しさ」なんて言葉では足りない、内面的な慟哭を抱えていることが終盤描かれます。いろんな立場でその身に共感できるのではと思います……「わかってしまっている」やりきれなさ。

バート・ランカスターはこの映画の頃まだ50歳位で、まったく老いてはいないのですが、老けづくりで演じていました。とはいえ、もともと肉体派のランカスター、見事な裸体をさらす入浴シーンもありました。正直目の保養です。(笑)でもここに象徴されるように、むしろ「枯れきってない」ゆえの煩悶がテーマかもと思えます。…ともあれヴィスコンティ監督、腐女子と利害一致でサービスのツボを心得てらっしゃいます。ありがたや。m(_ _)m

タイトルの意味も気になっていたのですが……もとのイタリア語タイトルは"Il Gattopardo"で、画像検索すると豹っぽい点々柄のネコ科動物が出てきます。英語タイトルは"The Leopard"で、こちらははっきりと豹。でも辞書を引くと、豹に似たネコ科の動物全般も表すそうです。どちらも日本語の「山猫」から自分が抱いたイメージとはちょっと違いました。

映画のなかでは(自分たちはかつて)山猫だった、獅子だった」というランカスターの台詞(心の声)がありました。イタリアの文化では豹・あるいは豹っぽい柄つきの大型野性ネコに気高いイメージがあるのかもしれません。見るまでは、アラン・ドロンのポスターのおかげで、彼に野性味のある猫っぽいイメージを重ねてる印象を持っていたんですが(笑)、獅子と並べているイメージなら、自分が「山猫」から連想したものより強くて大きくて孤高なイメージですね。「ヤマネコ」という言葉からは、もう少し小型でしなやかで狡猾な印象を受けますから、自分の脳内ではやはりバート・ランカスターよりアラン・ドロンのイメージに近いです。(日本公開時の戦略もあったのかな???)

…英語で「レパード(豹)」というと、「豹は体の模様を変えられない」(The leopard can't change its spots.)という言い回しがあります。(個人的には、たまたま『モーリス』で主人公の台詞として知ったもので、印象に残っています)そこから想像すると、「元々の性質は変えられない」という意味から、主人公の「表面上は時代に適応しながら内面に抱える葛藤」のイメージにつながる気がします。聖書由来だそうなので、たぶんイタリア語でも同じ言い回しが通用すると思うんですが……どうでしょう。(思い付きからの連想なのでぜんぜん違うかもしれませんが、こういうことアレコレ考えるのって楽しいんですよね!(笑))…いずれにせよ、動物のイメージは文化により違うので、特にキリスト教文化を根っこで共有していない日本では、一言でイメージを表現するのは難しそうですね。

…あ、そうそう! 忘れるところでしたが、ガリバルディ軍の将軍役でジュリアーノ・ジェンマもちらっと顔を見せてました! マカロニ・ウエスタンのイメージしかなかったのでびっくり! ヴィスコンティ映画に出ていたとわ☆ なんかジェームズ・フランコに似て見えたんですよ……軍服姿に「そっち系の色気」があって。なるほどなー、ヴィスコンティのお眼鏡にかなったか……なんて納得したりして(笑)。今ならそういう人気が出た方だったかもしれないなー、なんてヨコシマなことを思いました。(いや、いつもヨコシマだらけの鑑賞なのですが(^^;))

バート・ランカスター出演作では、同じヴィスコンティ監督の『家族の肖像』が好きなのですが、似たような立ち位置のキャラクターで、より「枯れた」教授役でした。『ルートヴィヒ』主演のヘルムート・バーガーに翻弄される役で、いろいろと萌えます❤

『山猫』のちょっと前に、たまたま『ローカル・ヒーロー/夢に生きた男』(主演ではありませんが、大企業の天文好きな社長役。ラブリーです♪)を見まして、いもづるでいろいろ見たくなったんですが、未見作品(のはず!)で探した『泳ぐひと』はレンタルがなく見られませんでした。残念です。うちにある出演作というと『大空港』『カサンドラ・クロス』といった、70年代頃のオールスターパニック映画くらいだと思いますが、「危機管理にあたるトップの立場」という意味では、『山猫』の役と共通項がないこともない……かもしれません。貫録があるので中年期はその路線多いのかもですね。『山猫』のドロンや『カサンドラ・クロス』ジョン・フィリップ・ローのような若い美男を従えた姿も絵になるので、これまた腐女子の琴線に響くのでありました♪(笑)

…比較的若い頃のランカスターには、なんとなくタフな肉体派のイメージを持っていたのですが、プロフィールを見てみたらもともとアクロバットをやっていたそうです。なるほど納得です。波打ち際のラブシーンが有名な『地上(ここ)より永遠に』、それに『ヴェラクルス』のガンマンも印象的でした……いずれも記憶が薄れているので再見してみたいです。意識して追いかけたことはありませんでしたが、出演作が多いので漁りだすと切りがなさそうな俳優さんですね。(笑)ちまちま攻略したいです。

余談ですが、昔「ザクト」っていうタバコのヤニ取り用歯みがき粉の広告で、白い歯を見せてニッと笑っている男性のイラストが使われてた記憶があるんですが……あれって『ヴェラクルス』のバート・ランカスターのイメージっぽくありませんでした? うろ覚えなんですが、今ググっても出てこないので気になってます!


…と、最後は散漫なランカスター萌え話になってしまいました。失礼しました!(^^;)


前述の通り、企画上映『ヴィスコンティと美しき男たち』『山猫』『ルートヴィヒ』全国巡回上映しているようです。今札幌と広島でやってるんですね。今後はわかりませんが、こちらで情報が見られます。


『ルートヴィヒ』は昔見たので今回は見送りましたが、初期公開版は(あれでも)短く編集されてたそうで、その後より長い「完全復元」バージョンができ、今回はそのデジタル修復版とのことです。そういえば、昔のはたしか表記が「ト」に濁点がつく「ルードヴィヒ」で、「神々の黄昏」ってサブタイトルがついてましたよね? 長いバージョンは「ルートヴィヒ」で、サブタイトルはつかないようです。いろいろ変遷があるんですね。(『山猫』は4Kという仕様の修復なのですが、これは劇場の設備によるので私が見た横浜では4Kではありませんでした。でも満足ですけど♪)

ともあれ、美しすぎた時代のヘルムート・バーガーが演じる狂王ルートヴィヒヨーロッパの貴族的耽美の世界がお好きな方には必見だと思います。

…たぶん、(自分を含めて)ある世代以上の耽美系アンテナを持ち合わせたお仲間には、『ベニスに死す』などと共に定番の一本だと思います。同性愛要素を美しく見せてくれる作品が少なかった頃、これらは当時の「腐女子(とういう言葉はなかったですが)的感性を持つ女の子の通過儀礼的作品」だった気もします。

これから涼しくなってくると、こういう映画をじっくり鑑賞するにも良い季節ですね。久しぶりの方も未見で気になる方も、ぜひチェックしてみてください♪(そしてこういう映画こそ、レンタル店には標準装備(?)していただきたいです! 見送った『ルートヴィヒ』をせめてレンタルで再見……と思ったらお店になくて、すごくショックだったので……)




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(以下に海映画3本の感想も書いたのですが、長くなりすぎるので切り取りました。別にアップします。映画の感想はツイッターで一言つぶやいて気が済むことが多くなり、逆に言うと記録が残らないので忘れてしまったのがかなりあります。以前はすべてサイト日記を見れば分かったのですけど……記憶力がないので自分でも不便です。(^^;)記憶をたぐって少しずつ記録したいと思いますー☆)