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2022/04/09

違和感とヒントと:ETV特集『ウクライナ侵攻が変える世界 私たちは何を目撃しているのか』

 いわゆる「ウクライナ危機」が始まって間もない頃から、強烈に、でも抽象的に感じていた違和感があります。小学生みたいなことを言いますが、 

「戦争を停めてくれ」と言っている人に対して、何かを「供与」して「がんばってもっと戦え」というのは何か違う気がする

ということです。でも「じゃあ他の何だっていうの?」と自問すると答えが出てきません。

 

毎日ニュースや情報に接するなかで、この違和感をもっとはっきりした形で考えるヒントを探しているので、見つけたものなど書き留めていこうと思います。

…で、ほんとは別のものから書いていたのですが、録画していた番組をようやく見たらすごくヒントにあふれていて、見逃し配信が今日まで(!)ということなので取り急ぎご紹介します。(見逃し配信終了後もNHKオンデマンドで見られるようです。出演者も豪華ですし、できれば1チャンのほうで見やすい時間に再放送があるといいな)

 

ETV特集
「ウクライナ侵攻が変える世界 私たちは何を目撃しているのか 海外の知性に聞く」

公式ページ https://www.nhk.jp/p/etv21c/ts/M2ZWLQ6RQP/episode/te/2Z83LY76JW/

 

次のお三方のインタビューで構成されています。

・スベトラーナ・アレクシエービッチ
(ノーベル賞作家。『戦争は女の顔をしていない』など)

・ジャック・アタリ
(経済学者・思想家・作家。フランス大統領の政策顧問、欧州復興開発銀行総裁などを歴任)

・イアン・ブレマー
(国際政治学者。政治リスクを専門とするコンサルティング会社を経営)

 

インタビュアーはNHKの道傳愛子さん。コロナのパンデミックをテーマにした同様の番組でも司会を務めてらして、いつもながら、語り口と話の進め方に安定感を感じます。アタリさんとブレマーさんはパンデミック番組のほうでも出てらっしゃいましたね。

見ながらポメラでたくさんメモを取ってしまったので、一部を載せておきます。自分のためのメモなので、漫然としたメモと字幕を書き写した箇所(カギカッコ部分)が入り混じっています。読みにくいかもですがご容赦を。


*       *       *

 

◆スベトラーナ・アレクシエービッチさん

 (三人の中では一番「当事者」に近い立場の方であり、体調もよくないとのことで、他のお二人が学者さん然としているのに比べてとても辛そうなのが印象的でした)

テレビと冷蔵庫の戦い

「経済制裁でロシアの生活が悪化すれば
『テレビと冷蔵庫の戦い』が始まります。
テレビが従来どおりにロシア国民に影響力を持つのは 
冷蔵庫がいっぱいの時だけなのです

冷蔵庫が空になれば人々は考え 起きていることに対して
何らかの反応をするようになると思います」

 

真実を書くには犠牲が伴う 故郷では本をかけず投獄される
(ベラルーシに住んでいた方ですが、現在は病気療養のためドイツにおられます)

自分の気力・体力 自分ができることを冷静にとらえるべき

 

勝たなくてはならない

救ってくれるのは愛だけ 憎しみでは救われない

法に基づいて裁かなくてはならない

そのためには勝たなくてはならない

 

「いま経験していることは本当につらいことです
この経験は血まみれです
でもここから私たちは多くを学び取るでしょう
私たちは いままでとは別の人間になるのです」

 

 

◆ジャック・アタリさん

 (ソ連崩壊で冷戦は終わっていなかった、これが冷戦の最後の残骸だというアタリさん。ヒントがたくさんありました。アメリカについての分析は、ぼんやり感じていた違和感をはっきりさせてくれました。)


Q: 「蛇の結び目」(今の状況)をほどくには?)

ネガティブにならない 悲観的になりすぎない 弱気にならないこと
どんな交渉のチャンスも逃さないこと
ウクライナやロシアなどの国で抵抗する勇気ある人たちを支援すること
この状況下でリスクを負う勇敢なロシア人を歓迎すること
ロシアや中国の人たちの気持ちが変わるよう出来る限りのことをすること
私たちは敵ではないと気づかせ民主主義のほうがよいと思ってもらえるようにすること

 

アメリカについて

アメリカという国は常に敵を必要としている

「私の考えでは当初中国は敵国という存在からはほど遠く 
アメリカの敵になり得なかった
それでアメリカは危機に陥った 
少なくとも
軍産複合体は危機に陥りました
議会から軍事予算を得るためには脅威がなくてはなりません
そこでロシアの存在が必要なのです
軍産複合体とクレムリンの過激派の中に 
利害関係が一致する人たちがいるのです

 

ブログリンク "Welcome to the Russians"(ジャック・アタリ公式サイト[仏/英])
番組中で紹介されていた投稿です。

いま起こっているのは前世紀からの 冷戦の最後の残骸なのだ

私たちは最悪の事態を避けるために冷静さを保つべきだ

 

いま私たちが見ているのは 冷戦の最後の出来事だと思います
というのも ポスト冷戦など 実際にはなかったのです
双方とも6000発もの核兵器を保有しています
そしてロシアは西側と同盟を結んだことがありません
冷戦は終わることがなかったのです
これは冷戦のクライマックスのひとつです
冷戦の終結はもう少し先なのかもしれません」

 

Q:冷戦が終わっていないとしたら 私たちは何に備えればいいのでしょうか?)

 

「今回の悲劇を通して 人々が理解を深めることで
冷戦が終わりに向かうことを期待すべきです
冷戦では双方が負けて得るものはない 失うものばかりです
そして現代社会において それは大惨事を生みかねません
ですから最善のシナリオは 今回の危機で人々が
今度こそ冷戦を終わらせなくてはと気付くことです
そのためには西側でもロシアでもすべての人の行動の改革が必要です

 

「利己的な利他主義」
(この用語はパンデミック番組でも言われていた、アタリさんの持論です)

「西側諸国にとってロシアに民主化を働きかけるのは 自分のためにもなる
そしてロシア人にとって民主主義に加わることは 自分たちの利益にもなるのです」

 

ロシアのオーケストラや音楽をボイコットするのは馬鹿げています
もっと歓迎をして上演をして 彼らを理解すべきです
もちろんクレムリンがバックにいる音楽家のことではありません
それ以外の音楽や演劇や文学を もっと深く知るべきなのです
両手を広げ 彼らと一緒に何かをするのです」

 

 

◆イアン・ブレマーさん

Q:「私たちは 特に西側諸国はこうした20世紀型の野蛮な戦争を防げなかったことを認めなければなりません 違うでしょうか?」)

 

「そうですね というより もっとひどいと言えるでしょう
ロシアのあらゆる行動を目撃しながら 
西側諸国は概して消極的な態度を取りました」

 

(「ブダペスト覚え書き」で アメリカ イギリス ロシアは核放棄とひきかえにウクライナの領土保全を約束した)

 

アメリカが学んでいないこと

「まず6000発の核弾頭という 
存亡に関わる脅威を消滅する方法を見い出していません
これらはアメリカにもロシアにも
一発たりとも使用させてはならないものです
この30年間 世界は核の危機が再び起きることは
基本的にないだろうと考えてきました
ずっとそう ふるまってきました 
しかし今やそんな時代ではありません
その可能性はあるのです」

 

*       *       *

 

ほんの一部ですが概要メモでした。 

インタビューの最後に、アレクシエービッチさんは
「真実を知ろうという気持ちに感謝します」
アタリさんは
「私が話したことをどうぞ役立ててください」
と結んでいました。


 もはや「どっちに味方するか」というレベルでは済まないんだ、とはボンヤリ感じているものの、どう考えたらいいのか、どう理解したらいいのか、茫然として金縛りになっているような身なのですが、学ぶための糸口がありました。


もちろん今自分は日常生活を普通に営んでいるわけですが、抽象的には個人レベルでもこの問題と同じ構造があるのをやりきれなく感じます。その意味でも他人事ではありません。もちろん「核の脅威」という旧世紀の単語だと思っていたものが、今現在自分たちに降りかかっているという意味でも。本当に恐ろしい。

 

こういうことを解決できる人類になろう、という意志が必要なんだと思います。メンタルからそっくり変わらなくてはならないと。自分は腰抜けだし視野も狭いし、今は「その範囲の外」の考え方が想像できません。まったく次元の違う発想が必要なんだろうな、とは感じるのですが。それはどんなものなんだろう。毎日ヒントを探しています。