2022/11/27

kindle版『美学としてのJUNE』

紙版に遅れること約2ヶ月……思った以上に時間がかかりましたが、kindle版『美学としてのJUNE:ブックレビューとポエムのこころみ』、ようやく11/4より配信を開始することができました。

「読書の秋」にふさわしい内容になっておりますので……あ、もう読書月間も終わってしまいましたね☆ 「おこたで読書」のお供に、ぜひ加えてやってくださいませ。毎度の口上ですが、ご趣味に合う方にお読みいただけたら幸いです。読み放題サービス(kindle unlimited)にも対応しておりますので、ぜひお試しください。


余談ですが、表紙の右の兄ちゃんは密かにジェラール・フィリップがモデル。
11/25から生誕10年映画祭も始まっています☆

《レビューさせていただいた作品》


(当初商品ページの説明欄がおかしな体裁になっていて、調整に手間取りTwitter告知も遅れ、ブログでのご報告は諸事情でさらに遅くなってしまいました。体裁が崩れた時期にご覧いただいたかたには申し訳ございません。同時に、いち早くチェックしていただきありがとうございました。(^^))


kindle化にあたって

「この本をJ庭の外に出して意味を持つかどうか」――前にも書いたかもしれませんが、この思いはありました。kindle=Amazonは、同人誌とはまったく接点のない方々の目にも触れる場なので……。でも考えを改めました。思えば「意味」を見出すのは読む方々であって、出版する側が決めることではないのです。(これは自分が読者であるときにも思うことです)出版する側に立つときは、できる限りのことをして、あとは祈るだけでしょう。

さて、それでは「できる限りのこと」とはなんだろう……。本のコンセプトは、「ブックレビューと創作詩を通して『私的に捉えたJUNEという美学』を確認・提示する」というもの。非常にニッチです。雑誌の『June』を回顧するものではなく、書評で扱っている本もまったくBLではありません。自分が考える「JUNE感覚」を共有する方々――その感覚を「JUNE」とは呼んでいないかもしれませんが――そんな方々に届けたい。そう考えると、じつは「JUNE感覚」の有無「同人誌やBL」とはあまり関係がないのだと気づきました。実際、自分は商業BLは(一時期、なかば義務感を持って読んだことを除けば)ほとんど読んだことがありません。潜在的なお仲間がいる場所はもっと広いのだと思います。あちらにお一人、こちらにお一人……と少数派であることはたぶん確実ですが。

そこで無い知恵絞って考えたのが「同人誌用語集」でした。もちろん同人のお仲間には蛇足ですが、万一同人外の方に読んでいただいた場合、壁となるのは文中で使っている「専門用語」だけだと思ったからです。

この用語集が必要な読み手の方で、かつ内容がお好みに合う方。そういう方にこの本の存在を知っていただくことは、自分の広告力(=実質ゼロ☆)を考えれば奇跡のような確率です。でも、同人誌界のお仲間(の、少数派の方々)と同じように、似た感覚を持つ方々とつながれたら……その可能性を追い求めるための、これもひとつの「こころみ」です。


美学ということ

「これを『美学』とか言っていいのか」――この思いも、紙版を作った時からありました。それで図書館でふと目についた本を読んでみました。文庫クセジュの『美学への手引き』――前半でもう充分確信を得られました。

「そういうことなら、コレも間違いなく『美学』だわ」と。

かいつまんで言うと、「美しいと感じる側の感覚」が扱われていたことが理由です。決して美術作品の知識の陳列ではなく、もっと本質的な、抽象的な部分――振り返ってみると、『美学としてのJUNE』でやろうとしたのはまさにそれで。「JUNEを感じる」作品のご紹介と同時に、作品の中に「JUNEを感じ取る」という行為「JUNE感覚」そのものがテーマになっていたのでした。

ペーパーからの再録が中心ということもあり、真剣さと気楽さが両方マックスで混在した内容なので、編集中は明確に言語化できていたわけでもありません。でも結果的には、まさにそれを目指したものになりました。

…「美学」という言葉は、本の企画を立てた時に自然に出てきて、ほかの言葉で置き換えられなかったものです。もう少しカジュアルに響く同様の言葉があれば、変えていたかもしれません。なんだか大げさに聞こえるし、アカデミックを衒うようでこっばずかしい感じもしました。もちろん、アカデミック畑の方が腐女子やBL的なものを「研究対象」として遡上に乗せるのを目にしたことはあります。でも自分の場合は姿勢も立場も正反対。在野の当事者(しかも傍流)の目線で感じているものを書いただけです。(逆に取り柄があるとすれば、まさにその「研究ではなく当事者の実感である」というところだと思います)

そんな「自分の分際」で、「美学」とか言ってしまっていいのかしらん。大学で美術史とか学んだ人でないと、そんなタイトル使っちゃいけないんじゃないかしらん……というオドオドした後ろめたさ(?)が、ずっとどこかにありました。(「のび太のくせになまいきだぞー」的な意味で……(^^;))。でも胸を張って――いや、ひっそりと――これは「美学」についての本だ、と思えました。


そんなわけで、kindle版はジャンルの登録も同人誌やBLではなく「美学」に寄せました。哲学の一ジャンルなんですね……ちょっと肩身が狭いですが、場違い感はこれまでBL系に登録してきた作品だって同じこと。(人生どこ行ってもアウェイです(笑))。正直登録ジャンルってあまり影響がない気がします。あとは成り行きに任せ、手を離れた本がいろいろな方に出会えますように、と願うばかりです。


体裁の試行錯誤

体裁の調整も、配信までに時間をとられた大きな要因でした。

kindleでノンフィクション系の本を出すことも、テキスト主体の電子書籍を横書きで出すことも(無料配信を除けば)初めてでした。 でも「固定レイアウトではなくリフローで」ということだけは最初から決めていました。(というのは、自分がこれまでに読んだ固定レイアウトのkindle本でテキスト主体のものは、非常に読みにくく、電子版のメリットである検索も使えなかったからです)

紙版ですでに体裁は整えているのだから、電子化なんてラクラク……と思っていたんですが。これがとんでもなかった!(^^;)

まず、kindleは文字サイズが変えられるというのが問題になりました。紙版では、引用部などを読みやすいように適宜改行を加えていたんですが、これが文字サイズの変更でずれるとかえって読みにくくなってしまう。

加えて、なぜかダーシ(――)が文字化けする箇所が出てきました。全部でないのが謎で。いろいろ試してみたら、どうも前後に日本語が入っていると文字化けしないようなのです。それがないと……ポエムで連続ダーシを罫線代わりにシーン転換をしていて、そこが文字化けしたんですが……そこは「横書きで日本語が入ってないから英文だ」と(kindleのシステムが)解釈して、全角ダーシが文字化けするんじゃないかと。(というのは、縦書き本を作ったときはこういう問題が起こった記憶がないから。縦書き=日本語、と解釈されているのではないかと思います)

また、三点リーダー(…)が下付きになってしまう、というのもありましたこれも、横組みで全角の「…」が英文と解釈されて、ピリオド三つ「...」になってしまうのではないか、というのが今のところの自分の推理です。


結果として、ダーシは罫線そのものに置き換えて解決しましたが、三点リーダーの下付きは変えることができませんでした。検索したら、この問題はkindleとは関係なくスマホの表示でも起こっているようです。ファイルの形式で対処できる問題ではないのでしょう。

自分はオンラインのプレビューでしか確認できないので、読む方の環境によって変わるかもしれません。でも今までの経験では、オンラインプレビューで不具合っぽく見えていたものが、kindle上では問題がなかったことがあり、その逆はありませんでした。たぶん事前に把握できない不具合は起こらないものと思います。

(以前はKDPページから確認用mobiファイルをダウンロードできたんですが、システムが変わって自分の環境ではmobiファイルを入手できなくなってしまいました。なので推測でスミマセン。万一なにか問題がありましたら、自サイトのお問合せフォーからお声がけいただければ幸いです)


解放として

思い返すと、この本をまとめること自体が、「JUNE」に関するこだわり――ある意味軛(くびき)――から、ジャンル(と自分)を逆説的に解放しようとする行為だったように思います。

発行日が「文化の日」(11/3)になったのも、自己満足ですがちょっぴり嬉しいです。(自分の中ではけっこう「文化的」な本になったので(^^))

お仲間は数少ないであろうと思われますが、さまざまな場所におられるそうした方々に、お届けできますよう祈っております。


kindle版(kindle unlimited対応)


紙版(BOOTH)
(誌面サンプルあり)