目次:(ページ内リンクツールがないのでご了承ください☆)
- 高島屋のユトリロ展
- 「白の時代」と「色彩の時代」
- 戦利品
- 巡回予定
- 「初めてのユトリロ」を求めて
- 「37年前」の半券
- 「百貨店の展覧会」…横浜高島屋の思い出
- (余談)横浜の「西口」
高島屋のユトリロ展
チラシとチケット半券。 作品リストも無料でいただけました♪ |
じつは学生時代に初めてユトリロの絵を見たのも横浜高島屋で、それから好きな画家のひとりになりました。懐かしさと思い入れと、芋づる式にちょっと感動した展開もあったので、いろいろ書きます。
展覧会の告知ページなどはこちら。今は動画でもPRするんですね。
パリを愛した孤独な画家の物語 生誕140年 モーリス・ユトリロ展
「白の時代」と「色彩の時代」
ユトリロは、たいてい描いた絵の特徴によって年代分けして紹介されます。漆喰の表現が魅力的な「白の時代」は人気があり、彼の代名詞ですね。自分もこれに惚れました。
今回見て思ったのは、「白の時代」の絵に描かれている曇天が、自分にとってすごく魅力的であること。曇天だから影がないんです。むしろ全体がぼんやりと光を放っているようにも感じる。現実にこういう天気の日はありますよね。子供の頃から好きで、なんとなく魂がふわーっと飛んで行ってしまうというか、茫洋とした気持ち良い感覚になります。その感覚が「白の時代」の絵にはあるんですね。漆喰はもちろんですが、この空の表現も大好きです。それで空に注目して見ていったら、絵によって空に光沢があったりなかったり……なかなか面白く感じました。
「色彩の時代」の絵になると、絵の中に陰影がくっきり描き込まれます。強い光が差した表現——つまり「日光が差すようになった」んだな、と気が付きました。単に使う絵具のバリエーションが変わったのではなくて、ものの見方=意識、目に入るもの、表現したいものが変わったのが感じられる。これは自分にとって大発見です。
展覧会は解説によって背景を知るのも楽しいですが、実物を見て自分で発見・解釈するのは何よりの醍醐味です。たぶん上記の切り口は(私が気付くくらいなので)ありふれた解釈なのだと思いますが、今回の展の解説は人物の掘り下げ——タイトル通り「パリを愛した孤独な画家の物語」——に軸足があったので、これについては言及されていませんでした。むしろ「観客が自分で発見する楽しみ」を残しておいてくれたようで、ちょっと嬉しく感じました。
戦利品
戦利品の額絵、ポストカード、トートバッグ。 額は手持ちの100均フレーム。お世話になってます♥ |
巡回予定
今回の展覧会は国内にある作品を集めたものだそうで、展示には母シュザンヌ・ヴァラドンと芸術家たちの人物相関図や、彼女の作品も少しありました。11月に京都に巡回するようです。(記事で横浜の展示にも触れられているので、同じ内容だと思われます)人気がある画家ですから、他にもあるかもしれませんね。秋にはちょうど「気分」なイベントだと思います。お近くの方はぜひどうぞ。
「初めてのユトリロ」を求めて
帰りの道々、「初めて見たユトリロ展」はいつ、どんな内容だったんだろう…と気になりました。高島屋さん自体のユトリロ展は10年ぶりだそうで、自分の記憶にあるのはそれよりかなり前なのです。「自分の学生時代」の年代を手掛かりに…と検索してみたんですが、「百貨店の展覧会」の履歴を一覧できるところってなかなかないんですね。(高島屋さんのサイトにあるかと思ったら無かった☆)それにこれだけ時間が経ってしまうと、ネットで探せる情報も少なくなるみたいで。なんでもネットでサクッと見つかると思ったら大間違い。改めて痛感しました。
ともかく、「そのものズバリ」ではない情報をチマチマつなぎ合わせて推理する……という流れになりました。まあこういうのは楽しいんですけど♪
…で、ネットオークションに出ているカタログなどから辿っていき、「なんとなくこれでは」というところまで絞り込みました。こうなるとカタログの実物が見たい! ダメ元で行きつけの横浜市立図書館のサイトで検索してみたら……なんとその時のカタログが収蔵されていました! うひゃー! さっそく取り寄せをお願いしました。それがこちら♥
図書館にあった「昔行ったユトリロ展」のカタログ。 |
中に巡回記録が♪ |
会期は1985-86。確かに横浜高島屋に来ています! ああ、これだったんだ! 中を見ると、使い込んだパレットの上に絵が描かれているのがあって、見たことを思い出しました。他は(正直似たような印象の絵が続くので)「これ」という記憶はなく、ひたすら漆喰の白に心奪われたことしか覚えていません。でもカタログを買えなくて、安めの額絵を買ったような記憶はあります。しばらく部屋に飾っていたと思います。今は行方不明ですが……。(なんとなく斜めから見た構図、という印象だけおぼろげに…)当時は100均のフレームなんて手頃なものはなかったので、そのまま飾って傷んで処分したのかもしれません。
「37年前」の半券
びっくりしたのは、中にチケットの半券が挟まっていたこと!見に行った方が挟んだまま寄贈したんですかねぇ……。
カタログに挟まっていた「37年前の」チケットの半券! |
なんだか貴重なので、同じぺージに挟み戻して返却しました。じつは私が借りてる間に、予約が入って延長できなくなったんです。でもこれはむしろワクワクしました! きっと今回の展示を見た方ではないかと思ったので。そしてユトリロの画集なら他にもたくさんあるのに、わざわざ「百貨店の展覧会の図録」を取り寄せたということは……もしかしたら、私と同じような経緯でこれを突き止めた方かもしれません。なんだか嬉しい! この半券も、同じように感慨を覚えたりなさるのではと思います。
昔のカタログの表紙(おそらくポスターもこれでは)と、 今回その「おぼろげな記憶に似た印象」で買ったポストカード。 なんとなく似ている…? (AIの学習テストみたい…(笑)) |
図書館で検索ヒットした時は「まさかデパートの展覧会のカタログが図書館にあるなんて…!」と感激しましたが、巡回を見ると美術館も含まれているんですね。自分が勝手に百貨店と美術館に線引きをしていただけでした。そういえば高島屋は「ギャラリー」ですが、東口のそごうにあるのは「そごう美術館」ですもんね。(こちらのほうが新しいのでいまだに「最近できた」印象なのですが、やはりいろいろお世話になっています♪)そう思うとますます、駅直結で簡単に行ける百貨店がこういう場を提供してくれる伝統をありがたく感じます。
「百貨店の展覧会」…横浜高島屋の思い出
思い返すと、ユトリロ以外にも「横浜高島屋の展覧会で初めて見た」ものがいくつもあります。特に印象に残っているのは辻村ジュサブロー展。子供の頃に人形劇『八犬伝』『真田十勇士』に親しんでいたのでその流れで行きましたが、展示では初めて見た「王女メディア」のド迫力の人形と、その展示スペースに平幹二郎さんの台詞(平さんが演じた舞台の衣装がジュサブローさんだったのです)が流れて圧倒されたのを今でも覚えています。ジュサブロー展は何度かあった気がしますが、この時の展示は(「メディア」のコーナー見たさに)複数回見に行きました。
「メディア」の舞台はその後も生で見る機会がなく、テレビの劇場中継か何かで映像を見ただけでしたが、いまだに平さんというとまず最初に思い出すのは「王女メディア」……それもあの展覧会での「台詞回し」の迫力です。スリコミってすごいものですね。(ちなみに母の持ちネタの一つが「独身時代に平幹二郎を街中で見かけたことがある」で、平さんが話題になるとまずこれを聞かされ、私は「王女メディア」を持ち出します(笑))
まだ歌舞伎を見始める前で、「そういうテイストのもの」に憧れる下地はあそこでできたのかもしれません。「中年男性が女性キャラを演じる」というねじれの魅力に目覚めたのも。(「王女メディア」はいわゆる「女形」に比べればかなり特殊な例だとは思いますが…)
また、展覧会ではなく小さな映画の上映会もあって、たしか初めて『スティング』を見たのも高島屋でした。あのどんでん返し! 興奮を今でも思い出します。
まだインターネットもレンタルビデオも自分には身近でなかった時代でした。遠くの美術館に行けなかった高校生にとって、学校帰りに歩いて行けた横浜高島屋の展覧会は新世界の窓でした。「友達と学校帰りに見に行き、そのあと興奮しながらおしゃべりする」楽しい経験と、さまざまな芸術体験を与えてもらいました。趣味・嗜好の形成に間違いなく影響していると思います。誇張でなく、当時の自分に芸術教育を施してくれた貴重な場でした。
昨今は百貨店が苦戦しているとよくニュースになりますよね。物販はたしかに通販でもっと安く、いろいろなものを物色できます。だけどこういう「体験」は、やはりリアル店舗ならでは。デパートに限らず、当時(80-90年代くらい)は文化的な催しが企業さんの勲章みたいで、「メセナ」(今や死語?)なんて流行り言葉のようによく聞きました。やはり世の中に余裕があったんでしょうね。
百貨店ということで言えば、俳優の大川橋蔵さん(亡くなった時の追悼放映『雪之丞変化』がきっかけで若い頃ハマりました☆)が、インタビューで「(特に買い物がなくとも)時間があると百貨店をぶらぶら歩き回る」と話していらっしゃるのを読んだ記憶があります。古書の『近代映画』か何かだったと思います。上質なものを見て回るだけで勉強になるのだと。なるほどと思い、自分も通勤で横浜を通っていた頃によく食器や工芸品のフロアを回り、タダで目の保養をさせていただいていました…。あまり吸収はできていませんが、商品だけでなくディスプレイも素敵で、少し日常を脱する感覚が味わえました。(服に興味がないのでその方面は行きませんでしたが…(笑))
今は美術館も収蔵品をネットで公開してくれたりしますが、こういう「リアル」の場ってまた違う体験です。社会人になって以降も購買客としてはあまり貢献できてないのが申し訳ないですが(^^;)、百貨店さん、がんばって生き残ってほしいです。特に横浜の高島屋さん。自分や家族にとって、今でも「にしぐち」の「たかしまや」は「日常の一歩外にあるちょっとした贅沢」の象徴です。地下の食品フロアで「御座候」を買うだけでも盛り上がりますが(大判焼きみたいなやつ。デパート土産にしては安くて家族も好きなので、行くとよく買います)、これからもいろんな展覧会を開催して、自分のよーな地元庶民に文化を届けていただきたいです☆
(余談)横浜の「西口」
…そうそう、余談ですが、横浜(駅周辺)に行くことを「西口に行く」と普通に言っています。いつだったか、テレビ番組でご当地ネタ的に出てきて、ちょっと愉快に思いました。そしてこの話題になると、昔横浜行きの相鉄の車内に貼ってあったポスターに「今日は西口に行って…」(ひらがなだったかも?)というコピーがあったのを思い出します。駅ビルのレストラン街か何かのポスターでした。それまで家族の口癖だと思っていたのが「みんな言うのかー!」とその時知りました。
東口にそごうができる前は、商業的に開けているのが圧倒的に西口周辺だったので、「横浜(駅)に行って買い物や食事を楽しむ」→「西口」、というイメージになっちゃったんでしょうね。ただの出口の方角なのに、「西口に行く」にはかすかな高揚感が漂います。(うちだけ?)
自分は父親(横浜生まれ)がそう言ってたので、子供の頃は「にしぐち」という地名のように感じていました。他の駅にも「西口」はあるよね、と頭の中でつながったのはずっとあとのこと。(笑)懐かしい思い出です。(^^)