2023/11/04

変わる言葉、進化する意識

 昨日は、図書館でチラシを見つけて申し込んでいた講演をオンライン視聴しました。

文字・活字文化の日記念講演会「翻訳の言葉、言葉の翻訳」
https://www.klnet.pref.kanagawa.jp/yokohama/new-info/2023/09/2023113.html


講演者は翻訳家の金原瑞人さん。以前『翻訳エクササイズ』(>amazon)という本を購入してお名前を覚えました。(ベテランの方なのに認識が甘くてすみません💦 訳書はたぶん意識せずに読ませていただいていると思います。とりあえず本棚ですぐ見つかったのは未読了の近刊で、カート・ヴォネガット『読者に憐れみを』でした。) 自分も底辺(…の、どん底の裏口入学的ドロナワ☆)ながらちょっぴり翻訳をしているので、何かヒントが伺えれば…と申し込んでみました。


面白く感じたのは、金原さん世代と「今の若者」との言語感覚の違いのお話(大学で教えてらっしゃるので)。最近の学生さんは、「ある日」を「とある日」「あらゆる」を「ありとあらゆる」、と書きたがるのだとか。…3へえ(死語(^^;))。自分も金原さん世代のほうによほど近いので、「と」や「ありと」に「必要ない or ちょっとくどいかも?」…程度の違和感を感じました。


以前はそういう表現を添削していたそうですが、最近は多いので直さなくなったそう。それから、訳文について若い編集者さんから「"死体"は生々しすぎるので"遺骸"ではどうか」と提案を受けた、というお話も興味深かったです。過去の言葉の慣習の変化はトリビアとしてよく聞きますが、自分がその渦中にいる、と認識するのはまた新鮮……。(軽くショックも☆)


そういえば以前、「最近は小説や映画がハッピーエンドかどうかを事前に確認したがる人が増えている」と聞き、衝撃を受けたことがありました。自分にはネタバレの一つに思えたので……。同人誌でならまだわかるんです。嗜好の縛りが強い世界なので。でも商業作品でもその傾向が強く出てきたということで、これも時代の変化でしょうね。


想定する読者層にもよるとは思いますが、全体に乱暴な表現(…とおっしゃっていましたが、「きつい/ショックが強い」表現、というニュアンス)を避ける傾向があるというお話でした。「なるべくショックは受けたくない・与えたくない」方向に行ってるのだとしたら、世の中全体も穏やかになるといいなぁ…。


ちょっと横道にそれますが、見たばかりのニュースで……アメリカの若者が米政府のイスラエル支援(この状況での)に異論を唱え、グローバルサウスの国々からダブルスタンダードを指摘されている、と報道されていました。こういうのって「やっと」表立って議論されるようになったんですよね。みんな思ってたことがはっきり言葉にされた。Me tooも、そのほかのアレコレも、そういうのが噴出している時代だと思います。やっと議論できるようになった。これは進化でしょう。先ほどの言葉の感覚の問題も、そのへんとどこかでつながる進化のようにも思えます。自分はもう中高年世代に入っていますが、「ショックの強い(野卑な/露悪的な/性的なetc.)表現をすればするほどエライ」みたいな価値観の世界には違和感を覚えてきたほうなので……。(まあ進化と言っても文化的なものなので一様ではありませんし、一方に針が触れすぎれば揺り戻す、という繰り返しもあると思いますが……)

そういえば、日常で接する若い店員さんや職員さんに、態度も言葉も柔らかくて印象の良い人が増えたなあ……という印象を持っています。もちろん逆の人もいることは認識していますが、比率の問題で。昔は「態度の悪い店員さん=若いバイトさん」みたいな認識がありましたが、ぜんぜん成立しなくなってきたのは確かです。

…横道失礼しました。講演では、最近は海外の作品(小説でも音楽でも)より国内の作品が好まれている流れについて、国内作品のレべルが上がったことが指摘されていました。旧世代(私も入ります)は、「(特定の分野については)海外作品のほうが出来が良い/面白い/かっこいい」…という時代を経験して、価値観もそこで培っています。そのへんがまた若い世代の方とズレてきているんですね。昭和ブームとかも逆説的につながっている気がする……そういう構図はいろんな所にあります。でもそれで「だから国内製のほうが」になったのではなく、「どっちでもいいじゃん」になってきているように見えるし、それは好ましいことのように思えます。

でも、さっきの「とある日」に感じた違和感のように……やはり自分の生まれた世代の「感覚」から完全には自由になれないな、とも思います。年を取ると、変化は(たとえ進化かもしれなくとも)劣化に見えやすいものです。よく「世の中が変わるのは人が考えを変えるからではなく、寿命がきて人が入れ替わるからだ」と言われますが……自分もだんだん抜け替わる側になっていくんだなー……と実感。


…さて、ちょっと寂しくなっちゃいましたが(笑)、お話のなかでは救いになった言葉が二つありました。「世の中うまい話はある」(金原先生の恩師の言葉として)と、「自分の持っている文体は一つしかない」。若者言葉を無理に使おうとは思わない方なのですが、勝手にお墨付きをいただけたような安堵感がありました(^^)。(今の年だからではなく、振り返ると若い頃から新しい流行り言葉に馴染むのに時間がかかるほうでした)


講演はカジュアルな雰囲気で、そのほかにもいろんなお話が聞けました。会場に行っている参加者さんのレベルが高かったらしく、質疑応答も聞いてて退屈しなかったです。無料で聞かせていただいてありがたいイベントでした。


でもよく見たら「子供の読書推進活動」をしている方の参加を想定した企画で、初めに高校の図書委員さんの動画紹介があってびっくりしました。…あちゃー、パンピーが申し込んでよかったのかしらん…と少し不安になりましたが、チラシには学生さんもOKとあるし(う、図書委員さんて意味かしら?(^^;))、特に活動を問われることなく申し込みができたので、セーフだと思うことにします。文化の日にふさわしい午後を過ごさせていただきました☆<(_ _)>


今週末・来週にも図書館のチラシで知った無料/廉価のイベントに申し込んでいます。こういう催し、これまであまり気にしたことがなかったんですが……涼しくなって、母(3年前に脳梗塞を患いました)も昼間留守にして大丈夫なまでに回復してくれたので、物色するようになりました。いろいろあるんですね。節約モードの身にはありがたいです(笑)。

じつは11/2の石田組組長さんのソロコンサート(石田泰尚さん。バンカラなビジュアルが目を引く、弦楽アンサンブルのリーダーさんです)にも申し込んでいたんですが、こちらは残念ながら落選でした。往復はがきでの申し込みだったので、応募多数で抽選になったとの返信がきまして……まあ抽選になるのは必然だろうと予想しておりました。当選なさった方はおめでとうございます!(羨ましいです!(笑))

次のイベントは自分もリアルの会場に行くので、また違った感じで楽しみにしています♪