2024/10/04

【感想】『星のない国』『ジェラール・フィリップ 最後の冬』

 引き続き、アマゾンプライム無料体験で見たものの感想メモから。今回はジェラール・フィリップの未見作品2本。その後調べたことも追記しました。


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『星のない国』

ジェラール・フィリップ主演。タイトルは記憶になかったが、1946年作品で初主演作らしい。デジャヴに導かれて100年前の悲劇を再体験(?)する青年と二人の男女のお話。幻想的といえばそうなんだけど、映画としてはイマイチ平板。でもジェラールの美しさが圧巻夢想家の青年、とてもよく似合っている。冒頭は大好きな『すべての道はローマへ』や『夜ごとの美女』等と似た路線のポーッとした感じのキャラクターだ。(だんだんシリアスになるけれど)

見終わってしばらくしてから、物語の不完全な感じがかえって深読みを誘って後ろ髪を引かれた。報われない三角関係と生まれ変わりの物語とも見えるけれど、実は「前世」に強く導かれているのはジェラール演じる夢想的な青年だけだ。現実を踏み外しやすい人物だからこそデジャヴを感じ、彼の無意識の行動が周りを巻き込んで状況を再現していったようにも見える。水面にできた渦のように。そう思うと意外に筋が通っているし、ある意味リアルでもある。(昔ハマッたニューサイエンス系を読み直してるところなので、マイブームに合っているのかも)「下敷きになった民話とか伝説とかあるのかな」と思え、調べてみたくなった。


【追記】原作と原作者について

上記の興味が続き、IMDbの「小説が原作」という情報から検索しまくってみました。脚本にも名前があるピエール・ヴェリーの小説が原作で、自ら脚色したようです。タイトルは映画と同じ"Le pays sans étoiles"。(英訳タイトルは"In What Strange Land")なんと原作はSFとして紹介されていました!

Véry, Pierre [The Encyclopedia of Science Fiction]

In What Strange Land ...? [The Internet Speculative Fiction Database]

村の中心に「知覚が歪む荒れ地」があり、そこと謎めいたつながりを持つ女性が「実は異次元から来たのかもしれない」という謎を巡る物語で、主人公は「タイムスリップしたビジョン」を見るそう。映画はSF感はなく、タイムスリップというより生まれ変わりめいた扱いでしたが、フォークロアっぽい不思議感(たぶん出てくる「100年前」の風物のせい)に惹かれたので、その不思議感が原作の残り香なのかもしれません。

ピエール・ヴェリーは邦訳書もいくつかあるようで、日本では主にミステリー作家として認知されているようです。

ピエール・ヴェリー(Pierre Véry)〔別名 トゥーサン=ジュジュ〕[aga-search.com]

でも、この映画の原作は邦訳がありませんでした。フランス語は読めないので、なんとかトライできそうな英訳版を探してみたのですが、英訳でさえ出版が1949年(原作は1945年)。期待したkindle版はなく、紙版も過去のオークションページしか引っかかりませんでした。残念!こうなると余計に読みたい!(笑)

でも、ヴェリーの作品は最近邦訳されたもの(『サインはヒバリ: パリの少年探偵団』)や、偶然にも来週発売予定の作品(『アヴリルの相続人: パリの少年探偵団2』)も見つけたので、今後に期待します。『星のない国』もぜひぜひ邦訳してくださぁい!!!

余談ですが、最近ブラウザが自動で翻訳してしまうので、映画のタイトルが変になって困ってます。IMDbの『星のない国』はなんとタイトルが『お金を払わない』。("pay"と入ってるからなのか……💦)すべてムリヤリ英語として解釈するらしく…タイトルの羅列を見るともはや大喜利(^^;)です。



『ジェラール・フィリップ 最後の冬』

早世したジェラール・フィリップが亡くなるまでの数か月と生涯をまとめたドキュメンタリー。本でしか知らなかったことが写真・動画・音声で見られて貴重。特に舞台のものを見聞きすると「実在の役者さんだったんだなあ」という感じがする。家族やレジスタンスの話など、自分にとって新情報もあった。

残念だったのは、亡くなるまでの経過と生涯の振り返りがまぜこぜで進行するので、いつの話をしているのかときどき混乱してしまったこと。そして亡くなるあたりのナレーションと映像編集が唐突で違和感があったこと。まるで仕事に疲れ切って絶望したために死んだかのようなイメージになっているのだが、そこまでは病床でも将来やりたい仕事のために本を読み、企画を立てていたという流れだった。

痛ましさはそれが断ち切られたことにあるので、わざわざ「働き過ぎで疲れ切った苦悩」を演出するのは違和感があった。(疲労感は病気が肝臓だったためでは? 自分もがんではないけど肝臓の病気は経験がある。ほんとに疲労感がしんどかった)
でもそれを補って余りある貴重な一本だった。

自分がフランス映画に詳しくないのもあって、ジェラール・フィリップは他の映画人とのつながりにあまり実感がない。映画史的な時代感も頭の中で孤立していたのだけど、聞き覚えのある映画人のエピソードなど出てきて少し変わった。記憶にあったあるエピソード——来日時に、フランスの文化優遇状況と比べて日本の状況をこぼした俳優に対し、「あなたたちが悪い」と言ったという——も、今回人生を見たら大いに納得できた。

早世も死因も情報としては知っていたけれど、奥様が撮った病床の写真など見てしまうと生々しく、悲しくなった。そして病床でも美しいことに驚いた。動物でも植物でも、病気になると見た目が傷んでいくものなのに。(もちろん何を公開し、何を公開しないかは判断されているだろうけれど。それは故人の尊厳を守るためでもあるし、ファンが抱くイメージを壊さないための配慮でもある)

「こんな美しい人が死ぬわけがない」という奥様の言葉が、なにか次元の違うリアリティを持って印象に残った。


【追記】

意識してなかったんですが、気が付けば初主演作と没後の回顧ドキュメンタリーを視聴したわけで。ちょっと感慨にふけりました。

2作の鑑賞後、手持ちの写真集(『スクリーン・デラックス ジェラール・フィリップ』)を掘り出したんですけど、『星のない国』はお母さまのインタビューで言及されているものの、フィルモグラフィページは1947年の『肉体の悪魔』から始まってました。日本では劇場未公開だったそう。その後DVDも出てるようですが、そこまで買うのはかなりのファンの方だけでしょうし、やはり認知される機会が少なかったのでしょう。

最初の印象はイマイチだった『星のない国』ですが、原作含めて深読みするようになってから自分のなかで「意外な拾い物」になりました。プライムビデオ見放題枠さまさまです。多くの未見の方がご覧になれますように。




上は今回掘り出した手持ちの写真集…というかムックですね。うちにあるジェラール本はこれだけかもです。(シネアルバムは貧乏学生時代に図書館で見た記憶が(^^;))昔の『スクリーン』に掲載されたリアルタイムの記事もあり、自分にとっては貴重な一冊です。


追記:過去に「生誕90年」映画祭の記事と当日展示されていた写真の撮影画像を掲載していたのですが、リンク元のサイトを閉鎖してしまったため、しばらく写真がない状態になっていたようです。改めてアップしなおしましたので、よかったらお楽しみください。映画祭で鑑賞した『夜ごとの美女』『悪魔の美しさ』感想も併記しています。