2014/02/26

大満足♪カイル・マクラクランがケイリー・グラントに扮する優しいゲイ・ムービー/『ボーイ・ミーツ・ラブ』(2004)

いやー、すごくよかったです!気分転換したくてゲイ・ムービーを漁っていて(笑)、カイル・マクラクランケイリー・グラントに扮し、ゲイの青年にアドバイスを与える」という説明だけで借りてしまったんですが…本編見てすぐ音声解説も聞いてしまいました!なんとなく借りたにしては大当たり!主人公は現代の青年で、「ケイリー・グラント」は主人公の想像の産物として出てきます。楽しくてかつリアルがいろいろ詰まった、全体的にはハートウォーミングな物語でした。原題は"Touch of Pink"。インディペンデント映画だそうで、ジニー賞ほかで4部門ノミネート。音声解説に監督イアン・イクバル・ラシード、主人公を演じたジミ・ミストリー、そして助演のカイル・マクラクランが出ています。



主人公のアリムくんの設定が複雑で、人種はインド系、生まれたのはアフリカ、育ったのはカナダ。今はロンドンでフォトグラファーをしていて、ゲイで白人の恋人と暮らしている…という人です。カナダで離れて暮らしている家族や親戚にはゲイであることは言っていません。で、母親が結婚を急かしにロンドンにくるんですが、アリムは事実を言えず、同居している恋人を単なるルームメイトと紹介します。この過程で恋人との関係もおかしくなってきます。

…この恋人がほんとにハンサムで優しくて気配りができるパーフェクトな人で、母親とも打ち解けようとします。…しかし表面上あまりに完璧すぎるんですね。で、この彼がユニセフで働いている、というのがちょっと皮肉に利いています。「ケイリー・グラント」がアリムの母親を「第三世界(日本語字幕では「遠い国」)から来たイスラム教徒」と言うんですが、それはアリムが言うように、アリム自身にも当てはまることなんですよね。ユニセフで働いている「完璧な彼」は、相手が「第三世界から来たイスラム教徒」だからこそ、ここまで優しく接しているんじゃないか?平たく言うと「いい人」な自分が大好き、というタイプじゃないのか?と、ちょっと勘ぐりたくなる場面もありました。あとのほうでちゃんとそれも台詞に反映されてました。もっと軽いノリかと思ってましたが、ちょっとここで深みが出ました。
でも基本的に本当に愛し合ってるカップルなので、こういういろんな要素の絡み方がリアルに感じられました。この恋人の妹が、「兄には元彼以外に実質的な友達はいない」とサラリと言うんですが…このへんもよく考えると深いかも。

マクラクランが演じる「ケイリー・グラント」は、主人公にしか見えない「想像上の友達」。そういうものを持ったまま大きくなってしまったナイーブな感じが、主人公にはよく出ていました。「ケイリー・グラント」は要所要所でアリムにアドバイスや激励を与えますが、見る前に想像した「アドバイス」とはちょっと角度が違ってて、そこも面白かったです。

なんでいきなりケイリー・グラント?と途中までは思ったんですが、後半でこの理由もちゃんと着地してました。マクラクランは最初グラントには見えなかったんですが、あのアゴはほんとに似てて(笑)、ハンサムだけどすごくユーモラスでした。(グラントも二枚目だけどユーモラスな役がうまいですよね)マクラクランの現実離れした雰囲気が活かされていたと思います。音声解説でも「違う時代から来たような」とか「生まれるのが20年遅かった」とか面と向かって言われてました。異世界の人でなく「普通の人」の役だと違和感あるくらいですよね…(笑)

母親は19歳の時に息子を生んだという若い母で、彼女なりのドラマがあって、けっしてステレオタイプになってないです。「第三世界から来たムスリム」で想像するようなキャラではまったくなくて、そのうえ美人!

「ケイリー・グラント」主人公のおばさんにあたるキャラがコメディータッチなので重くならないんですが、主人公と恋人、母親との関係はリアルな問題を描いていて、細かいところまでよくできてると思いました。監督が脚本も書いていて、やはりご自身がゲイでインド系。(映画のなかに「彼氏」も映っています)アリムはご自身の分身だそうです。特典映像のインタビューで、古いハリウッド映画が子供の頃から好きだったんだけど、それらの映画が自分のような観客を想定して作られてはいないことに疎外感を感じた、だから自分のような人間が主人公の映画を作りたかったと語っています。この視点は「洋画好きの日本人」にはすごく共感できるところでした。(…もはやその差に慣れて、洋画に出てくる「勘違いされた日本人キャラ」を笑って面白がる、くらい歪んだ(?)スタンスになっちゃってますが(^^;)、本来想定された観客ではない、という感覚は当たり前のようにありますよね。とくに古い映画では…)

…期待してなかったのもあるかもしれませんが、ほんとによくできてて、楽しくてセクシーで(裸のキスシーン程度ですが、恋人役の人がもう、ホントに色っぽいので(笑))、お話もリアリティーがあり、かつ重くなりすぎないナイスな映画でした。イベント後の疲れをとりつつ見るにはドンピシャでした!(笑)

…あえて映画の欠点を探せば、「ヘテロはみんな偽善者か~い!」というツッコミもしようと思えばできます…が、まあ好きこのんでゲイ・ムービーを見るような腐女子としては気になりません!(笑)

グラントの古い映画へのオマージュがたくさん入っているので、そのへんも好きな方は楽しめると思います。自分はケイリー・グラント作品はそれほど熱心に見ていないので、音声解説を聞いてもピンとくる箇所は少なかったです。ピンときたのは、比較的最近に見た『夜を楽しく』の分割画面(これはグラントでなくロック・ハドソンドリス・デイの作品)が取り入れられていたことなどでした。この時代の映画のテンポやライティング等も意識して使ったそうなんですが、単に監督の趣味でそうしただけではなく、話のなかで効果的に使われています。

マクラクランの衣装グラントが作品で着たデザインを取り入れているそうです。細かく見ていくと面白いと思います。冒頭のケイリー・グラントのシーンだけ昔のワイドサイズで撮っている、というのも芸が細かいなーと。インド人社会の風習も覗けましたし、ほんとに満足。劇場で見てみたかった一本です。とくに腐女子さんにはおすすめ!であります。

…ちなみにキャストは主人公とマクラクラン以外はカナダ人だそうです。恋人役のクリステン(クリス)・ホールデン=リードにはホントにやられました。白くてすぐ紅潮する肌均整のとれたプロポーションの、ソフトなハンサムさんでした。でもちょっと早めに頭が薄くなりそうな…(よけいなお世話☆(^^;))他の作品もチェック入れてみたいです❤

あれ、今Amazon見たら、レビュアーさんも恋人くんにやられてますねー♪(納得納得❤(笑))原題はそういうもじりだったのか…。

ジャケット写真のマクラクランがなんか深刻ですが、実際はコミカルで、このイメージより気楽に見られました♪