2021/03/21

皆川達夫さん②:思わぬところで「貴腐人」に深い意味が

 ①からだいぶ時間が経ってしまいましたが、昨年亡くなった音楽学者皆川達夫さんについて、音楽以外の気楽なミーハー話です。亡くなった後ににわかファン状態でいろいろ調べ回った時、ワインにも造詣が深くて『ワインのたのしみ方』という本を出していらしたと知り、いきおいで古書をゲットしまして……。ちなみに自分、まったくの下戸でアリマス。なのでほんとに、純粋に(?)ミーハーな興味で読ませていただきました。


入手した皆川達夫さんの『ワインのたのしみ方』


…なんですが、まず驚いたのが、注文時は文庫だと思っていたのに届いたものが新書版だったこと。奥付は昭和48年です。どうやらこれがのちに文庫化されたようなんですね。アマゾンレビューにあった「ワインを注いでもらっている皆川先生のお茶目な笑顔の写真」は文庫版で新たに入ったものなのか、手元の本にはそれらしき写真がないのが残念です。(写真は入っているけれど注いでもらってはいない。後年のお姿で「お茶目な」お写真て見てみたい❤)でも、逆にある意味貴重ですし、著者近影もお若いです! 

『こころの時代』にちらりと出てきた若かりし頃のお写真もイケメンでびっくりしましたが、いやー、やはり中年期もハンサムさんだったんですね~♪(個人的にはおじいちゃん然としてからのルックスのほうが惹かれますが……)おまけにこの裏表紙、推薦文を書いてるのはなんと芥川也寸志さん!音楽つながりですね。こちらも時代感が……テレビでよく拝見していた頃のお顔が目に浮かんで、なんだかたまらんです。


裏表紙、著者近影のお若い皆川達夫さん❤

中の文章は、時代を反映した感じでホンワカしつつも、「ワインは女性のようにデリケート」なんてくだりは、一見紳士的なようで、今の感覚だと隠微な女性差別感が……まあ時代ということで。とにかく、保管や飲み方のお作法から生産地別の特徴、小説に出てくるワインなんてのまで、初心者には充分すぎる内容で楽しく読めました。

でも自分にとってもっと楽しかったのは、皆川さん自身の好みやこだわり、キャラクターが透けて見えるところ。「ワイン」より「葡萄酒」というほうがお好みだったり、新聞漫画の「フジ三太郎」を「フジ・サンペイ」と間違ってたり(作者のサトウサンペイさんとブレンドしてしまったようで……いいんですよ無理して一般人のふりなさらなくてもー!(笑)てか編集者さん気づいてあげて☆)……「なんでもかでも英語風に表現しなくては気が済まない最近の一般的世相はあまり好感がもてず」なんてあたりも、なんだか(失礼かもしれませんが(^^;))かわいらしいです❤ ちょっと引用させていただきますね。

「肉の焼き方を聞かれたから〈生焼きでお願いします〉と注文すると、必ず〈ロウですね〉と返してくる。こちらも、それなればこそというわけで、〈そう、セニアンで〉とフランス風に答えると、急にどこの方言かといわんばかりの軽べつした顔をする」(p.29)

――大人げないですよっ!(笑)…というか微笑ましくて……よほどムカッとしたんでしょうねえ、こんなとこに書くなんて(笑)。ともあれ、フランス語など縁もない身には上記の小話も雲の上感タップリですし、紹介されている本格的なワインは当時今以上に贅沢品だったんだろうなあ……というのがひしひしと伝わってきました。当時ワインブームがあったらしいですが、ザ・庶民な自分などには(たとえイケるクチだったとしても)別世界です☆

でもワインについては、大好きな英国俳優ジョナサン・アリスさん(勝手にイアンシリーズの主人公のモデルにさせていただいている方)もワイン好きでいらっしゃるので、ちょっと憎からずな印象もあります。

読んでいて食べ物とワインの組み合わせがおいしそうでたまらなくなり、ワイン感のあるぶどうジュースでチーズを食べてみたりしました。自分にはこれが精一杯。下戸にとってはワインだろうがショーチューだろうが、アルコール飲料は「決して行けない憧れの国」です。

ワインのような風味だった濃厚赤葡萄ジュース

そして……タイトルにしましたが、『お酒が飲めないあなたのためのエチュード』という箇所でおすすめされていたソーテルヌの白ワインを調べていて、「貴腐ワイン」なる言葉を初めて知りました。本書には「ここのブドウはおそく摘み取られるために、一種のカビが繁殖し、腐敗状を呈します。〈高貴なる腐敗〉と言われるものですが…」とあります。

…ええっ、「貴腐人」てここから!? うわー、めっちゃシャレたところから持ってきてたんじゃん! 「高貴なる腐敗」ってのもなんか合う!?……と、驚くと同時に大納得!(なじみがない方のために……ある程度年齢がいった腐女子のことを「貴腐人」と呼ぶ場合がある……そうです。自分は言いませんけれど(笑))…

……だったんですが、調べてみると「貴腐人」の語源を「貴腐ワイン」からとした説明は見当たらないんですよね。やはり純粋に「貴婦人」に掛けただけだろうか。でも、偶然にしてもこんなイメージが連想可能だと思うと、言葉に味わいが増します。(笑)

…皆川達夫さんのお名前をこんな切り口で取り上げるのは畏れ多いんですけれど、自分のお里がお里なもので……(身もふたもないです(^^;))。皆川さんのお名前で検索なさってお読みくださった方がいらしたらごめんなさい。でもほんとにびっくりしたので。(音楽のお話や見つけたリンクなどは、「皆川達夫さん①:「ムジカ・ムンダーナ」なすれ違い」にまとめております)

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【余談】さっき触れたジョナサン・アリスさんですが、出演なさっている映画『ビバリウム』が日本でも公開になりました! いつも映画ではカメオ程度の出演だったりするんですが、今回は脇ながら予告編でもかなり登場なさっていてワクワクします。主演はこれまた好きなジェシー・アイゼンバーグくんですし、見に行きたいんですけど……うーん、ちょっとまだ劇場に行くのはためらわれます……レンタルDVDを待つことになるかなあ……。(涙)

ついでですが、以前アリスさんがお父様から受け継いだワインセラーについてお書きになった記事を、こっそり拙訳でご紹介したことがあります。少し長いですがいいお話なので、よろしければどうぞ。